― Travalystの自己宣言、認証データ流通、OTA表示、Green Keyの制度移行から考える「信頼できる認証の違いは消費者に届くか」 ―

English version → Read in English

【公開用中間整理】2026年9月25日公開版|公開資料ベース・関係先の公開意向を反映

1. 目的

2026年9月27日、Directive (EU) 2024/825(Empowering Consumers for the Green Transition。以下「ECGT/EmpCo」)に基づく各国措置の適用が始まります。観光分野では、宿泊施設等が使用するサステナビリティ認証・ラベルが、OTA(オンライン旅行会社)等を通じてEU消費者に表示されます。
JaSCAは、認証制度の法的要件、認証情報がデータとして流通する仕組み、OTA等での表示判断、認証制度側の移行措置を分けて確認してきました。本稿は、特定企業・制度の違法性を断定するものではなく、公開資料から確認できる事実とJaSCAの法的・技術的分析を区別し、9月27日の適用開始時点で残る実装上の論点を整理する中間報告です。
同時に、JaSCAが確認しようとしているのは、根拠の不十分なサステナビリティ表示を防ぐことだけではありません。EmpCoが求めるcertification schemeの要件を実質的に満たす、信頼できる第三者保証を備えた認証制度と、その認証を取得している施設について、その保証水準の違いがデータ流通の途中で失われず、最終的に消費者が正しく認識・比較・選択できる状態をつくることも重要な目的です。保証構造の異なる認証が実質的に同じ表示として扱われれば、消費者の選択を困難にするだけでなく、より高い水準の認証に取り組む施設の努力や投資が市場で適切に評価されない可能性があります。

2. ECGTが求める「certification scheme」

Directive (EU) 2024/825により改正されるDirective 2005/29/ECでは、一定のサステナビリティラベルについて、その根拠となる「certification scheme」が所定の要件を満たすことが求められます。特にArticle 2(1)(r)(iv)は、事業者の適合性を監視する第三者について、そのcompetence(適格性)とindependence(独立性)が、国際・EU・国内のstandards and proceduresに基づいて確保されることを求めています。
Directiveの前文(recital 7)は、ラベルを表示する事業者が、表示前に、公開された制度条件を通じて透明性・信頼性の最低条件が満たされていることを確認すべきとの考え方を示しています。ISO/IEC 17065への適合やRegulation (EC) No 765/2008の仕組みは例示されていますが、NAB認定だけが唯一の経路と規定されているわけではありません。重要なのは、監視主体の適格性・独立性を支える標準・手続が実質的に確認できることです。

3. 本稿の情報利用方針

本稿の2026年9月25日版は、関係先の意向を尊重するため、原則として公開ウェブサイト、公開された制度文書、法令その他の公開資料のみを根拠としています。JaSCAが個別に受領した非公開のメール回答については、公開・引用・正式帰属の条件が明確になっていないものを本稿の事実認定には使用していません。
Travalystからは業界向けコミュニケーションで回答を引用できる旨の明示的な許諾を得ていますが、本版では他の組織との取扱いを揃えるため、Travalystについても主として公開資料に基づいて記載しています。個別回答について公開許諾が得られた場合は、当事者回答として後日追補します。

4. Travalyst:リストは「自己宣言」の公開リポジトリ

TravalystのCertifications Initiativeは、認証制度がECGT適合を自己評価し、自己宣言する仕組みです。Travalystの公開ページは、Travalyst自身が認証制度の適合性をassessment又はverificationするのではなく、制度側が申告した情報を公開し、業界に透明性を提供する役割であると明記しています。
公開FAQでも、リスト掲載はTravalystによる承認・endorsement・verificationではなく、制度がECGT適合を自己宣言したことを示すとされています。また、参加制度には毎年の再宣言が求められ、問題提起のためのGrievance procedureも用意されています。
したがって、Travalystリストへの掲載と、個々のcertification schemeについてECGT上の要件が第三者によって独立に確認済みであることは、同じ意味ではありません。

5. 認証データの流通:データ伝達と法的確認は別の機能

認証情報は、認証機関・制度所有者からデータプラットフォームや旅行流通システムを経由してOTA等へ届けられます。BeCause.ecoの公開情報は、認証ステータス等を認証機関等の情報源から受け取り、構造化し、APIを通じて多数の旅行プラットフォームへ配信するモデルを説明しています。
このようなデータ連携は、認証情報を迅速・一貫して更新するうえで重要です。一方で、「情報を正確に運ぶこと」と、「その認証制度がECGTのcertification scheme要件を法的・技術的に満たしていることを確認すること」は別の機能です。旅行流通のどの段階で後者が確認されるのかが、本調査の中心的な論点です。逆に、保証情報が途中で欠落すれば、より強い第三者保証を備えた認証とそうでない認証の違いが、消費者に届く前に失われる可能性があります。

6. OTA表示:表示主体に残る確認課題

Booking.comの公開情報では、25,000を超える宿泊施設について第三者サステナビリティ認証情報を表示し、60以上の第三者認証を扱っているとされ、Travalyst等との連携も公表されています。これは、OTAがサステナビリティ認証情報の重要な消費者向け表示主体であることを示しています。
一方、ECGTの前文は、サステナビリティラベルを表示するtraderが表示前に制度の最低条件を確認すべきとの考え方を示しています。そのため、OTA等がTravalystの自己宣言リストや認証データを参照する場合、underlying certification schemeの第三者監視主体について、competenceとindependenceを何の資料・基準・手続で確認するのかが重要になります。
この問題には、適合確認だけでなく「信頼できる取組を見えるようにする」という側面があります。OTA等が認証制度ごとのassurance levelの違いを内部データとして保持し、必要に応じて消費者向け表示へ反映できなければ、信頼できる第三者保証を受けた施設も、保証構造が異なる制度の施設も、消費者からは同じ「認証あり」に見える可能性があります。EmpCoの目的に沿う市場では、不十分な表示を抑止するだけでなく、信頼できる認証を取得した施設の違いが消費者に伝わり、選択に活かされることが重要です。
本稿では、公開許諾が完了していない個別の非公開回答には依拠せず、この点をOpen Questionとして残します。

7. Green Key:9月27日適用と10月1日新体制の接続

Green Keyの現在の公開資料では、2022–2026のcriteriaは2026年9月30日までを対象とし、旧certification processも「until October 2026」として公開されています。旧プロセスでは、audit reportをindependent third-party entity(external auditor又はNational Jury)がレビューし、最終certification decisionを行う仕組みが説明されています。また、certification期間中のongoing conformity、苦情対応、suspensionの仕組みも示されています。
一方、Green Keyの新しいCertification Process 2026–2031は2026年10月1日から開始され、独立したCertification Bodyが最終決定を行う仕組み、第三者auditor、surveillance、2年間のcertificate等が示されています。Green KeyのHistoryページは、新しいcriteriaとcertification processesについてDANAKのscheme approvalを申請中であると記載しています。
さらに、Green Keyは9月23日付の公開案内で、EmpCoが9月27日から適用されることを示すとともに、9月27日から10月1日まで世界のGreen Key officesを閉鎖して新制度へ移行すると案内し、認証施設にGreen Keyに関するenvironmental claimsの見直しを促しています。
ここで確認が必要なのは、9月27日から30日の4日間について「旧制度だから直ちに不適合」ということではありません。旧制度の公開プロセスには第三者レビュー等が存在します。問題は、ECGTが求める第三者監視主体のcompetenceとindependenceが、どの国際・EU・国内のstandard又はprocedureに基づいて担保されるのか、また既存certificate・labelの継続使用にどの移行ルールが適用されるのかを、適用開始時点で説明できるかどうかです。

8. JaSCAの現時点の法的・技術的分析

以下は関係各社の見解ではなく、公開資料とDirectiveの要件に基づくJaSCA独自の分析です。


第一に、Travalystの自己宣言リストは旅行業界に透明性を提供する有用な仕組みですが、それ自体を個別schemeの独立した法的適合確認と同一視することはできません。
第二に、認証データの配信・同期と、認証制度の保証構造の確認は別機能です。データが正確に伝達されても、第三者監視主体のcompetence / independenceを支える根拠が別途確認できる必要があります。
第三に、OTA等の表示主体には、EU消費者への表示前に、参照する認証制度がcertification schemeの最低条件を満たすかをどのように確認するかという実務課題があります。
第四に、制度移行の将来計画は重要ですが、法令適用開始日と新制度開始日が異なる場合、その間に適用される監視・認証・表示ルールを明確にする必要があります。Green Keyは、この移行問題を検討するうえで具体的なケーススタディとなっています。
第五に、この問題は消費者保護と市場インセンティブの両面を持ちます。保証水準の違いがデータ流通・OTA表示の段階で失われると、消費者は信頼性の違いを判断できず、同時に、より高い水準の第三者認証に投資する施設も市場でその価値を示しにくくなります。EmpCo対応は、不十分な表示を減らすだけでなく、信頼できる取組が正しく可視化される仕組みとして実装される必要があります。

9. 現時点のOpen Questions

① OTA等は、Travalyst等の自己宣言情報を参照した後、certification scheme要件をどの証拠・基準・手続で確認するのか。
② 認証情報がデータ仲介・APIを経由する際、certification body、accreditation、適用standard、monitoring structure等の保証情報はどこまで保持・伝達されるのか。
③ 自己宣言によるECGT statusと、NAB認定その他の外部評価で裏付けられたassuranceの違いは、OTA内部又は消費者向け表示でどのように扱われるのか。また、より強い第三者保証に基づく認証を取得した施設を、消費者が識別・比較・選択できる情報はどのように提供されるのか。
④ Green Keyについて、9月27日~30日の既存certificate・labelの継続使用を支える具体的なmonitoring / certification arrangementは何か。
⑤ Green KeyのDANAK scheme approvalと、新Certification Bodyの運用開始・既存certificateの移行は、どの時点・手順で接続するのか。
⑥ 日本の既存Green Key認証施設に対し、9月27日以降の表示・更新・移行についてどの具体的guidanceが適用されるのか。

10. 今後の対応

JaSCAは、関係組織から公開・帰属の許諾を得た回答について、当事者回答として本稿に追補します。許諾がない非公開のやり取りは、公開資料と混同しません。
9月27日以降は、Booking.com等の主要OTAにおける認証ラベルの実際の表示、Travalystリストの更新、Green Keyの新体制・DANAK関連の公開情報を継続確認します。また、必要に応じて欧州の消費者保護・環境分野、法務・適合性評価の専門家に技術的見解を求めます。
本調査の目的は特定制度を攻撃することではなく、制度設計、認証判断、データ流通、表示判断の各段階で「誰が、何を、どの根拠で確認するのか」を明確にすることです。そのうえで、根拠の不十分な表示を防ぐと同時に、信頼できる第三者保証を備えた認証制度とその認証を取得した施設の価値が、流通過程で失われず消費者に正しく届き、選択に反映される市場環境をつくることを目指します。

11. 主な公開資料